税務調査について

 令和2年9月に鹿児島市で開業いたしました、税理士の橋本和典です。これから、毎週金曜日にこのブログで皆様のお役に立てるような情報や面白い事を書いていこうと思います。よろしくお願いします。

 税務調査とは、国税通則法により定められた質問検査権に基づくもので全ての納税者に対し受忍義務が生じるものになります。

任意調査ではないのか?
 質問及び検査は、実力で調査を強制出来ないという意味で任意調査とされていますが、実際に調査を拒否すると、罰則規定があるので間接強制力を持ったものになります。

憲法38条の黙秘権により自己に不利益な供述をする必要はないのでは?
 税務調査は行政手続きの一種であり、刑事責任追及のためでないため、憲法38条の適用はないのが判例となってます。結局、事業を行っている限り全ての方に税務調査を受ける可能性が存在し、現実的には拒否することができないものと思われます。ただし、税務調査の実施に当たっては、事業の運営や個人の権利などには十分配慮しなければなりません。調査日程の調整は当然行ってもよいですし、質問検査権の範囲を逸脱していると思われる調査へはしっかり抗議しやめさせましょう。

税務調査に入られる可能性が高い場合

①事業規模が大きい(売上1,000万、5,000万、5億などが基準)

②申告漏れが多い業種(風俗営業、現金商売、建設業など)

③過去にも税務調査がありその際、多額の追徴税額が生じた

④消費税の還付申告を行っている

⑤同業種と比較して売上や利益率などが突出しいる

⑥ここ数年、売上や粗利率の変動が激しい

⑦お尋ねなどの資料せんで申告内容と矛盾する情報がでた

⑧反面調査などで申告内容と矛盾する情報がでた

⑨勘定科目別の金額の変動が大きい

⑩最近大きな売買を行った

⑪メディアなどへの露出があった

⑫税理士がついてない

⑬そもそも申告書の記載が間違っている

⑭内部告発があった

修正申告とは

 申告書を提出した後にその申告内容に誤りがあり、納めた税金が少なかったり、還付される税金が多すぎたりした場合、修正申告書を提出し、新たに税金を納めます。

 また、過少申告加算税(10~15%)や延滞税を併せて納付する必要があります。

 なお、修正申告を行った後は、後述する不服申し立てはできません※1。

※1 修正申告に対して更正の請求は可能。

 結果、更正をすべき理由のない旨の通知処分を受けたら不服申し立てをすることができる。税務調査の現場においては、調査官から修正申告の勧奨※2が行われることがほとんどです。

※2 修正申告の勧奨

 調査官が指摘した非違事項を納税者に認めさせ、納税者自らがその誤りを修正して申告するように促すこと。

更正処分とは

納税者が修正申告に応じない場合、課税庁が職権により行う処分です。更正通知書が税務署から送られ、納税額などのほかに理由附記※3がなされます。

※3 理由附記

不利益処分を行うにあたって、課税庁は何を根拠にしたのか、その法的要件や証拠資料などを明確に示す必要があります。

(再調査の請求)

 なお、更正処分に不服がある場合、更正処分通知を受けてから3カ月以内に税務署長(国税局長)に対して不服を申し立てることができます。

(審査請求)

 さらに、再調査の結果の処分に不服がある場合は、再調査決定処分から1カ月以内にその処分の取り消しや変更を求めて国税不服審判所長に対し、不服を申し立てることになります。

 再調査の請求を行わず、審査請求を行っても構いません。その場合は更正処分の通知を受けた日から3カ月以内に申し立てます。

(訴訟)

 そして、国税不服審判所の裁決に不服があるときは、国税不服審判所の裁決から6カ月以内に地方裁判所に訴訟を提起することができます。

国税庁より

修正申告と更正処分の違い

  修正申告と更正処分、どちらになっても納税額や加算税などのペナルティが変わるというわけではありません。

 しかし、税務調査の現場では「そこはおたくの主張を聞くから、これは否認します。この内容で修正申告を行ってください。」といったやり取りが行われ、修正申告に応じるというケースが多いのではないかと思われます。

調査官としては更正をしたくないというのが本音だからです。

その理由として、以下のようなものが挙げられます。

①上述したように更正処分を行う場合、理由附記を行う必要がある
②不服申し立てを行った場合において、附記した理由に不備があったとき、処分の取り消しになる可能性もある。
③更正処分を行う場合、国税不服審判所の審査や裁判で争うことも想定しなければならないため、国税局(審理担当や訟務担当)の決済も必要となる。

まとめ

 国税庁統計によると令和元年度の

①再調査をおこなった場合における認容割合は12.4%(全部認容及び一部認容を合わせた割合)

②審査請求をおこなった場合における認容割合は13.2%(全部認容及び一部認容を合わせた割合)

③税務訴訟をおこなった場合における勝訴割合は3.4%(全部勝訴及び一部勝訴を合わせた割合)

①+②+③=29%

 更正処分を不服として、申し立てや訴訟を行った結果、令和元年度においては29%しか有利な結果を勝ち取っていません。

 だからといって、法的根拠が曖昧であったり、認定事実が誤っていたり、通達の解釈による課税など納得できないような場合でも、争った場合の勝算の低さに怯えるあまり安易に修正申告に応じてしまうと調査官の思うつぼになってしまいます。

 事実を超えて要求されることに対し、自ら申告するということは申告納税制度の理念に反する行為です。こちらが正しいと考えることについては粘り強く、そして冷静にその法的根拠や証拠などを主張し、調査官との交渉を続けましょう。

 確かに、29%という数字は小さい割合ではありますが、過去の判例や裁決事例をみても、失礼ですが、正直これでよく争ったなと思うようなものが多々あります。また年度によっては勝率が4割に近い年度もあります。

 長くなりましたが、税務調査をスムーズに乗り切るためには、結局、常日頃から法律のもとに正しい処理を行い、証拠を積み上げていくことが一番の対策なのではないでしょうか。