名義預金について(調査事例より)
令和2年9月に鹿児島市で開業いたしました、税理士の橋本和典です。これから、毎週金曜日にこのブログで皆様のお役に立てるような情報や面白い事を書いていこうと思います。よろしくお願いします。
今回は相続税の税務調査事例について書きます。
1.【調査事例】令和元事務年度の相続税(熊本国税局) 2021年01月13日 税のしるべより引用
被相続人の口座から現金を引き出して、相続財産から除外していた事案
被相続人のキャッシュカードを使用して、被相続人名義の口座から多額の現金を出金し、相続人名義の口座に移し替えることにより、申告から除外
調査対象者(相続人)の申告について、相続財産の申告漏れが資料情報等から想定されたため、調査に着手した。調査の結果、相続が開始するまでの複数年(複数回)に渡って、被相続人のキャッシュカードを使用して、被相続人名義の口座から多額の現金を出金し、相続人名義の口座に移し替えることにより、相続財産から除外していたことが判明した。
平成29年分の申告漏れ課税価格は約9500万円、加算税を含む追徴税額は約2800万円だった(重加算税あり)。
相続税の申告義務があることを知りながら申告していなかった事案
被相続人と相談し、被相続人名義の口座から多額の現金を出金することにより、相続税の申告義務が生じないよう隠蔽
調査対象者(相続人)は相続税の申告書を提出していなかったが、相続税の申告義務があると資料情報等から想定されたため、調査に着手した。調査の結果、相続が開始するまでの間、被相続人名義の口座から多額の現金を出金し、相続人の自宅に隠し持つことにより、相続税の申告義務が生じないよう隠蔽していたことが判明した。
平成29年分の申告漏れ課税価格は約1億7000万円、加算税を含む追徴税額は約1200万円だった(重加算税あり)。
被相続人の口座を解約して、相続財産から除外していた事案
被相続人の指示の下、被相続人名義の口座を解約して、相続人名義の定期預金を開設することにより、申告から除外
調査対象者(相続人)の申告について、相続財産の申告漏れが資料情報等から想定されたため、調査に着手した。調査の結果、生前、被相続人の指示の下、被相続人名義の口座を解約し、相続人名義の定期預金を開設することにより、相続財産から除外していたことが判明した。
平成29年分の申告漏れ課税価格は約9000万円、加算税を含む追徴税額は約1800万円だった(重加算税あり)。
被相続人が保険料を負担していた生命保険の権利を相続財産から除外していた事案
契約者は相続人であるが、保険料負担者が被相続人である生命保険契約について、相続人自身で保険料を負担したとして申告から除外
調査対象者(相続人)の申告について、相続財産の申告漏れが資料情報等から想定されたため、調査に着手した。調査の結果、契約者の名義は相続人であるが、保険料の実質負担者は被相続人であることから被相続人の相続財産とすべきところ、調査対象者は自ら保険料を負担したものであると偽って、相続財産から除外していたことが判明した。
平成29年分の申告漏れ課税価格は約6700万円、加算税を含む追徴税額は約1900万円だった(重加算税あり)。
2.贈与税の時効前に被相続人から相続人等へ資金移動が行われていると、頭を悩ませます。(贈与税の時効:法定申告期限から6年、悪質な場合7年)
・贈与契約書が存在する。
・金銭消費貸借契約書が存在する。
・明かな名義預金である。
上記のように法的もしくは客観的事実が存在すればよいのですが、大体は相続人等への聞き取りによって事実を明らかにしていくことが多いです。
しかし、2次相続(最初の相続で残された配偶者も亡くなった時)や数次相続(被相続人の遺産分割が行われないうちに相続人が亡くなって、次の相続が開始してしまうこと)の場合など、当時の状況を知る親族の方などが既に死去してしまっていて、事実の把握が困難な場合は、以下の選択肢を迫られます。
不明な資金移動が判明した場合
①名義預金とする
当該入金口座の出資状況、管理支配状況から総合的に名義人ではなく被相続人の財産と判断する。
→当該口座は被相続人の財産として相続税の申告を行う。
②贈与が行われていたとする
名義預金となるような状況がなく、資金移動後にその財産を相続人が費消している。受贈者が存命で、贈与を受けた意思を明確にしているなど。
→贈与税の期限後申告を行う。
③貸付金(仮払金)や借入金(仮受金)とする
A:被相続人から相続人へ資金移動が行われていた場合で、名義預金や贈与とするべき事情がない時
→資金移動された金額を貸付金(仮払金)として相続財産に計上して相続税の申告を行う。
B:相続人から被相続人へ資金移動が行われていた場合で、名義預金や贈与とするべき事情がない時
→資金移動された金額を借入金(仮受金)として相続財産から債務控除して相続税の申告を行う。
贈与税率が相続税率より相当に高くなる場合など、名義預金や貸付金とした方が納税負担が少なくなることが多いでしょう。
しかし、税務調査においては、贈与を主張してくることがしばしばあります。過去においても課税庁よりかなり強引に贈与とされ課税処分を受けている事例が見受けられます。しかしながら、贈与は、あげる方ともらう方の双方における意思が存在してはじめて成立します。
(民法549条)
贈与は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。
まとめ
調査官が当事者間における贈与の意思があったかをはっきりと立証していないのであれば、(基本的に贈与契約書等がない限り、課税庁側が立証することは難しい)贈与課税を安易に受け入れるべきではありません。
検証した結果が、
・当該入金口座の出資状況、管理支配状況などから総合的にみて名義預金ではない
・資金移動後にその預貯金を相続人が自ら費消していない
以上のような状況であれば、たとえ被相続人の口座に他の相続人の口座から資金が入ってきていた場合においても、被相続人において借入金(仮受金)として申告することも十分考えていいと思います。 名義預金や生前贈与といったところは、相続税の税務調査でも一番問題になるポイントとなり、相続税を申告する際、細かく注意するところの一つになります。 名義預金や贈与税の申告漏れとならないように、初めからしっかりとした対策をしておくことが肝要です。身も蓋もないですが、やはり問題になりそうなところは、予め生前に整理しておくことがなにより大切です。