土地を譲渡したときの譲渡所得の計算で、取得費がわからないとき
令和2年9月に鹿児島市で開業いたしました、税理士の橋本和典です。これから、毎週金曜日にこのブログで皆様のお役に立てるような情報や面白い事を書いていこうと思います。よろしくお願いします。
今回は、土地を譲渡したときの譲渡所得の計算で、取得費がわからなくて困ったいときの対処法について紹介します。
土地や建物を売却した場合以下の様に計算を行います。
譲渡損益=収入金額-(取得費+譲渡費用)
収入金額:売った金額 取得費:買った金額 譲渡費用:売るときにかかった経費
例示 40年前3,000万で買った土地を5,000万で売却し,諸経費が200万かかった場合
5,000万-(3,000万+200万)=1,800万…所得
1,800万×15%=270万円…所得税
1,800万×2.1%=37万円…復興特別所得税
1,800万×5%=90万円…住民税
譲渡所得の計算上の最重要項目が取得費です。取得費がいくらかによって所得税の金額が大幅に変わります。売買契約書などで購入金額が明らかに分かっていれば取得費で悩むこともないのですが、数十年前に取得した土地等の売買契約書を紛失してしまっているケースも多いです。この場合、選択肢は5つ挙げることが出来るのではないでしょうか。
1.概算取得費(売った金額の5%)
2.購入時の借入金から推定
3.購入時の公示価格、相続税評価額、固定資産税評価額を調べ推定
4.一般社団法人日本不動産研究所が発表している地価の推移を表した指標データである市街地価格指数をつかう https://www.reinet.or.jp/
5.記憶に任せる
1は国税庁タックスアンサーに掲載されており、徴収サイドが推奨する計算になるため最も納税額が多くなる選択です。因みに今回の例では1,005万円の納税になります。
2~3、について、合理的な算定価額には違いないかもしれないが、根拠性が乏しい。
4、につて、日本不動産研究所が発行しており最寄りの官報販売所で購入できます。
なおこの方法はH12年11.16裁決により国税不服審判所が認めています。 https://www.kfs.go.jp/service/JP/60/19/index.html
これは判例のような法的拘束力を持つものではないが、公開裁決事例といって、「国税不服審判所が、納税者の正当な権利利益の救済を図るとともに、税務行政の適正な運営の確保に資するとの観点から、先例となるよう位置づけられる」ものになります。
ちなみに、今回の例では401万円の納税になります(仮に6大都市の住宅地を売った場合)
5、について、確かな記憶によることを書面にして自己責任での申告となるでしょう(笑)
私の結論は相当限定的ですが4です。ただ、購入金額が分っているときは、当然原則計算です。
計算式:土地の取得費≒土地の譲渡価格×(取得時の市街地価格指数÷譲渡時の市街地価格指数)
条件
1.購入時の地目が宅地であること
2.契約書等がないこと
3.購入先が純然たる第三者であること
4. 交換や買換え等の特例での取得でないこと
5.土地が所在する地域の地価(路線価や公示地価など)が市街地価格指数と同じ水準で推移していること(市街地価格指数は、全国、六大都市、地方別、三大都市圏などの地域単位でまとめられた数値で、必ずその土地固有の実勢を反映するような精度の高いものではないため)
ただこれらの要件を満たしたとしても、税務調査で否認される恐れが無いとはいえません。
また、過去の申告につき1で計算したものを、4で計算し直して更正の請求が可能かというご質問があると思いますが、それは次の理由によりすることができません。
更正の請求は、当初の申告が「申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかった」または「計算に誤りがあった」ことによって税額が過大になっていた場合にできるものです(国税通則法第23条第1項第1号)。概算取得費による申告は法律の規定に従ったものであるため、計算に誤りがない限り更正の請求はできません。また、法律の規定に従った処理方法が複数あっていずれかを選択する場合では、処理方法の適用替えのために更正の請求をすることはできません。
※なお借地権の有無についても注意する必要があります。
借りていた土地に建物を建てた場合は、後ほど購入した部分は底地です。
底地購入の場合、普通は底地権割合(1-借地権割合)で交渉することが多いです。このような場合は、(市街地価格指数や路線価で推測した土地購入金額に)底地権割合(「1-借地権割合」)を乗じた金額で計算することも検討すべきでしょう。